『生きる』『ここ』| 谷川俊太郎
2024年11月にお亡くなりになった詩人の谷川俊太郎さん。
教科書に載っていた詩や『スイミー』のお話、スヌーピーの翻訳、鉄腕アトムの主題歌まで、谷川俊太郎さんが手がけたものと知らなくても彼の言葉に触れたことのある人は多いかもしれません。
生前のインタビュー(※1) で、自分の詩についてこのように語っていました。
詩は理解するよりも味わうことが大事。理解できなくても何となく好き、何かが気に入らない、と味わえるのが詩の言葉の魅力です。草花のように見た人が『きれいだな』と思ってうれしくなったりなぐさめられたりする詩が、ぼくの理想だよ。
数多く残された谷川俊太郎さんの作品で、好きな詩を二つご紹介します。いずれも子どもの時に読んで、定期的に読み直したり、時折ふっと思い出す詩です。「いま」を生きることについて、深く優しい言葉で紡がれた詩は、子供ながらに心に響くものがあったのだと思います。
通り道でふと見かけたきれいな花のように、大切にしたい詩です。
生きる
生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみすること
あなたと手をつなぐこと
生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと
生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ
生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎてゆくこと
生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ
- 『うつむく青年』谷川俊太郎 著 (1971年)
ここ
どっかに行こうと私が言う
どこ行こうかとあなたが言う
ここもいいなと私が言うここでもいいねとあなたが言う
言ってるうちに日が暮れて
ここがどこかになっていく
- 『女に』谷川俊太郎 著 (2000年)
詩集として好きなのは『すこやかに おだやかに しなやかに』(ブッダが説いた原初の教えを記した経典『ダンマパダ』からインスピレーションを受けた詩集)で、こちらについてもまた別の機会にご紹介したいと思います。
偉大な詩人 谷川俊太郎さんに感謝を込めて。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
【参考】
(※1) 「いま」を生きるしかない 谷川俊太郎さんが子どもたちにのこした言葉
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